肥満症治療を困難にしている原因は何ですか?

過食だけでなく、ストレスの解消も重要である

肥満症の合併症によって患者さんの日常生活は困難になりますが、それだけではなく、たくさんのストレスを抱えて精神心理学的に不安定な状態に陥っている人が多くいます。過食は、内面の不安定さを補う行動の一様式とも考えられます。過食や肥満状態の持続が、患者さんの罪悪感や自己嫌悪·自己否定感を助長していることがあり、こうした状態にある患者さんの食事をいきなり制限すると、さまざまな問題が顕在化してくる場合もあります。

患者さんの抱える内面的な問題の把握と整理を行い、心理的負担を多少なりとも軽減することや、ストレス解消法としての過食を減らす方法を探すことは、肥満の治療を強く後押しします。減量や過食の抑制など少しでも成果があれば、十分な賞賛を与えることが大切です。肥満症治療には困難が伴いますが、減量が成功し、体形や合併症が改善するとともに、心の安定を取り戻していく例もしばしばみられます。

ほかの疾病の診療との相違点は何ですか。

肥満症治療は食事療法·運動療法が主であり、治療を患者さん自身の生活習慣改善努力に頼らざるをえないところが、ほかの疾病の診療と大きく違います。

肥満症の患者さんにとって食事はエネルギーと栄養の摂取にとどまらず、ときにストレス解消のための重要な手段となっていることを医療者は理解すべきです。患者さんに生活の抜本的な見直しを求める前に、病態はもちろん、その人の生育歴や肥満歴も含めた生活環境、感情コントロールの仕方、思考過程などについても十分に把握し、達成可能な具体的対策を個々に立案する必要があります。

こうした医療の遂行には、多職種からなるチーム医療が不可欠です。メンバーが専門知識や技術を生かし、各々の立場で得た患者情報を共有し、一元化された方針のもとにアプローチすることは、他の疾病以上に大切です。

患者さんが一般に、治療に積極的にならないのはなぜですか。

高度肥満症患者を対象に心理テストを行うと、物事を表面的にとらえる、逃避的である、計画性に乏しいといった性格特性がしばしばみられます。このような性格が患者さんを積極的にみせなくしている理由かもしれません。

肥満症の治療はほかの生活習慣病と異なり有効な治療薬がなく、「病院に行かなければ薬がもらえない」という通院を促す強い動機がありません。そのため、目標が達成できない場合に、病院から足が遠のいてしまいがちです。また、いったん減量に成功したもののリバウンドし、挫折感や不全感を強く感じて治療を中断することもあります。通院を中断した数年後、重篤な合併症で再来院する例がしばしばみられます。

精神心理的なサポートによって患者さんのモチべーションを維持し、通院を継続させることが肥満症治療では非常に重要です。

肥満症患者と医療に関わる人との関係

肥満症の患者は、一般的にコミュニケーション能力に欠ける傾向があります。また、自らの世界に閉じこもりがちで、なかなか心を開こうとしない傾向もみられます。医療者側も時間的な制約があり、患者さんの内面の葛藤に気づきにくいため、患者·医療者関係が深まりにくいと考えられます。

医療者が肥満症の患者さんの成育歴や肥満歴、家族関係、生活環境、職場環境などにも積極的に耳を傾け、共感し、尊重することで、患者さんとの距離を縮めることができます。

「病院で肥満外来を開設しても長続きしない」 と言われるのはなぜですか。

肥満外来は設備投資が少なくてすみ、簡単に始められるように思われます。そのため、過去に多くの肥満外来が開設されてきましたが、必ずしも継続は容易でないようです。その理由として考えられるのは、まず、診療報酬上の評価が十分でなく、病院経営に資するものでないと早期に判断されてしまうこと、次に、通院を中断してしまう患者さんが少なくなく患者数が増えにくいこと、 そして、治療効果が早期に得られにくいため医療者が意欲を失いやすいことなどです。

肥満外来を運営するにあたってはこれらを踏まえ、長期的展望のもと、医療人として社会的使命を果たす責任感を強く持ち、粘り強く取り組むことが大切です。自分たちの取り組みによって治療成績が向上すれば、医療者のモチベーションも良好に保たれます。

肥満症治療が診療報酬で評価されるためには、どうすればよいですか。

現在、肥満症治療が診療報酬で十分評価されていないことは大きな障害です。肥満症治療は、患者さんの生活歴や肥満歴など背景の聞き取り、性格分析やカウンセリングなどに専門的な技術と、多くの時間を要します。その費用はいまのところ病院が負担せざるを得ませんが、多面的で緻密な情報収集や精神心理的サポートは、肥満症治療を成功に導くために必要不可欠なものです。 中長期的な患者データの収集と解析に取り組み、実績とェビデンスを積み上げることが、診療報酬評価への道を開きます。

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